【薬師堂のマキ】怪音に耳を澄ます
「薬師堂マキ」
竹林に囲まれ、立派なマキの木と、存在感のあるお地蔵様が佇んでいる。
まるで昔の日本にタイムスリップしたような、美しく、どこか懐かしさを感じるような場所だ。
しかし、何故だかここ薬師堂マキは心霊スポットとして有名なのだ。
この薬師堂マキがある周辺は広大な公園で、その昔は源平の戦いの戦場にもなった場所だという話もあり、自殺者、殺人事件、何かと悪い噂は絶えない。
そして薬師堂マキ付近で、奇妙な怪音が流れているという話は有名だ。
それはラジオ、音楽、話し声など、聞こえ方は様々だ。
現地に行けば、すぐに気が付くほど、大きな音がするという。
ある日の夜、肝試しで友人と薬師堂マキへ行った時の話。
しばらく探索して、お堂付近をウロウロしていると、どこからか太鼓や笛の音が聴こえてきた。
あまりにもハッキリ聞こえるので、僕らは気になって音のするほうへ歩いていった。
位置的には、薬師堂マキを正面にして、右手に真っ直ぐ進んだところだ。
音がどんどん大きくなって、かなり近くまで来た時、
急に音が止んだ。
音の出所を見失ってしまったので、耳を澄ましながら、あたりを探索していると、
今度は誰かが談笑している声が聞こえた。
さっきの比ではないほど、声は鮮明に聞こえた。
しかもそれはラジオではなく、生声のようだった。
場所もかなり近い。
距離でいったら20mくらいしか離れていなかったと思う。
僕たちは忍び足で、その声のするほうへ歩いていった。
だが、声のするほうへ近づけば近づくほど、目と耳を疑いたくなった。
その音は竹林の中から聞こえているのだ。
竹林は鬱蒼としていて、とても人が入れる隙間なんてない。
ふと時計を見ると、午前1時半だった。
こんな真夜中に人がいるとは思えないし、ましてやこんな鬱蒼としている竹林の中にいるなんて、とても思えない。
もう声の出所は目と鼻の先だ。
ここまできたら正体を見てみたいという気持ちも少しばかり出てきていた。
恐る恐る僕は竹林の中にライトを向けた。
竹林の中へライトを向け目をこらすと、そこには昔誰かが住んでいたような痕跡があった。
だがそこに人の姿はなかった。
今思えば、ラジオの怪音に紛れるあの人の話し声。
不気味に思ったのは間違いなかったが、あの人の話し声は、楽しそうに談笑しているようだったので、不思議と恐怖はあまり感じなかった。
その後は幽霊に取り憑かれたとか、身体に異変が出たなどはなかったけれど、もし肝試しに行こうという人がいたら、遊び半分では絶対に行かない方が良い。
0コメント