【旧岩淵水門】黒いボール

旧岩渕水門


東京都北区の荒川に佇ずむ水門で、通称「赤水門」と呼ばれている。

明治時代に建設された歴史ある水門だ。

私は子供の頃からこのあたりで育ち、この赤水門には小さい頃からよく訪れていた。

大人になるに連れて、赤水門には行かなくなり、付近の河川敷で軽くランニングする程度になっていた。


しかしこの赤水門、水門の脇に大きな橋と公園があり、

そこで幽霊を見たという人が後を絶たない。

馴染みのある場所だからこそ、学生時代から不気味な噂はよく耳にしていた。

それでも小さい頃から赤水門を見てきた私は、

不吉な話を聞いても、全く怖いとは思わなかった。

その日は週末、お決まりの夜のランニングへ行くことにした。

いつものコースをたんたんと走り、赤水門に近づいてきた。

いつもは立ち寄ろうなどとは思わないのだが、その時は子供の時の記憶が蘇り、

懐かしく思え、水門近くまで行ってみたくなった。

赤水門の脇の、公園へと繋がる橋の上に足を運んだ。


あたりには街灯もなく、暗い。

人気もなくてとても静かだ。

夜に近くで赤水門を見ると不気味で、

この場所が心霊スポットと言われるのも納得してしまう。


しばらく赤水門に見入っていると、

突然、橋の下の方から、

(ポチャン、チャポン)

っと、川で何かが泳いでいるような音がした。


「魚でもいるのか?」


そう思い、橋の下の川を覗き込んだ。

音の鳴ったほうに、黒いボールのようなものが浮かんでいた。

私は気になり、小さいライトを持っていたので、照らしてみた。


すると、その黒いボールのような物が、クルリと反転した。

それが何か分かった瞬間、私は凍りついた。


それは、黒いボールではなく

人間の後頭部だった。


ゆっくりと、少しずつ頭がこちらを向く。

その様子はワニのように、鼻から下が水面の下に沈み、

目元は笑っていたが目玉は無く、真っ黒に窪んでいた。

無いはずの目で、こちらをじっと、見られているのを感じた。


我に返って、私は震える足で急いでその場を走り去った。

この赤水門は、長い歴史の中で、

入水自殺、荒川の氾濫などで亡くなり、

その遺体が流れ着いて水門に引っかかることがよくあったという。

ここは霊の溜まり場だ。

おそらく、霊感が強い人なら近づくことはまずしないだろう。


それからというもの、赤水門には近づくことはおろか、

ランニングコースまで変えたことは言うまでもない。


信じてもらえなくても構わない。

だが、本当のことだ。



https://www.youtube.com/watch?v=om9yBwIQIJ4

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